コウヤマノート

「ゆりかご」開設10年②

2017年7月1日

熊本日日新聞への2日目の寄稿文の原稿を紹介します。


熊本市長であった自らの責任であると自覚した上での発言になりますが、この10年間での最大の問題点は「ゆりかごを『孤立』させてしまったことだ」と考えています。前回述べた相談体制にしても、今では行政の窓口はほとんど利用されなくなり、全国から救いを求めて慈恵病院に集中しています。

さまざまな事情で親と暮らすことができず、社会的養護が必要な子どもは熊本県内に約900人、全国では約4万6千人といわれます。ゆりかごに預けられた子どもを含む要保護児童たちは、児童相談所を介して特別養子縁組や里親、乳児院や児童養護施設等で暮らすことになります。そうしたことはあまり知られていません。「ずっとゆりかごで育てられる」との誤解は今も少なくないようです。

その社会的養護に関して、国はより家庭に近い環境での養育を目標に、施設の小規模化や里親制度の普及促進等を進めようとしています。里親に関しては、福岡市や大分県のように国の方針に先駆けて取り組み、成果を上げているところもあります。本来は、ゆりかごのある熊本こそ、関係機関の連携やサポート体制を強化し、多くの人たちを巻き込みながら社会的養護をもっと充実させていく必要がありました。

ゆりかごへの積極的な関与を国に求めることは前回述べたように必要なことですが、児童相談所の体制強化や里親を含む家庭的養護の推進、市民との協働体制の確立、命の尊さを伝えることや性教育の充実など、熊本でやれることはたくさんあります。

ゆりかご開設直後に直面した問題は、情報の取り扱いについてでした。プライバシーの保護を最優先に考える私たち行政と、ゆりかごの抱える課題を広く社会に訴えるためには具体的な情報が必要とする報道機関との間で激しいやりとりがしばらく続きました。「ゆりかごをブラックボックス化するつもりなのか」―と厳しい指摘や批判を受けることもありました。

私たちもゆりかごを通して明らかになった課題を社会に訴えることは重要と考え、プライバシーには十分に配慮しながら、当初は「1年に1度、預けられた件数のみ」としていた公表項目を少しずつ広げていきました。現在では、25項目について、検証会議等を経て報道機関に公表しています。確かに当初のように件数のみの情報だけでは、報道機関の懸念通りになっていたかもしれません。こうした過程を経て公表されている情報の一つ一つが広く市民に共有され、社会的な議論が深まり、課題解決のために有効に活用されることを願ってやみません。

一方で、気になる点もあります。10年も経過すれば、ゆりかごに預けられた子どもたちもそれぞれ成長します。中にはカメラの前で発言する子どもも出てきており、出自を知る権利に関わることなど、当事者の言葉を何よりも重く受け止めています。プライバシー保護を尊重することは、行政だけではなく報道機関にも求められているはずであり、取材には最大限の配慮を求めたいと思います。

また、ゆりかごの呼称を「赤ちゃんポスト」と呼び続ける報道機関があることにも違和感を覚えます。なにも美化する必要はないと思いますが、全国で唯一の施設をあえて別の呼称で呼ぶ意図が私には理解できません。差別や偏見の温床となることも懸念されるところです。

この10年間、ゆりかごは社会のさまざまな問題を浮き彫りにしてくれました。そして社会の一部として重要な役割を果たしてくれました。ゆりかごとともにあったこの10年を今後にどう活かすのか、私たち社会が問われています。いま一度原点に戻り、ゆりかごが使われない社会、もしくはゆりかごを必要としない社会とはどんな社会なのかを考え、そこに一歩ずつでも近付いて行く具体的な行動が求められていると思います。
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